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  • 人的資本経営の取り組み事例|推進に必要な背景やステップを解説

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    人的資本経営 取り組み

    近年、企業経営において「人的資本経営」という考え方が急速に注目を集めています。

    経済産業省が「人材版伊藤レポート」を公表し、上場企業には人的資本情報の開示が義務化されるなど、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉える経営が求められる時代となりました。

    しかし、人的資本経営とは具体的に何を意味し、どのような取り組みを行えばよいのか、明確に理解している企業はまだ多くありません。単なる情報開示のための施策では意味がなく、経営戦略と連動した本質的な人材投資が求められています。

    本記事では、人的資本経営の基本的な考え方から、企業が実践すべき具体的な取り組み、成功事例、そして新たな投資領域として注目される「金融教育」の重要性まで、体系的に解説します。

    人事責任者や経営層の方々が、自社の人的資本経営を推進する際の実践的なガイドとしてご活用ください。

    目次

      そもそも人的資本経営とは?人材を資本と見なす新しい経営の考え方

      人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値の向上を目指す経営手法です。

      経済産業省の定義によれば、「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」とされています。

      従来の人材戦略との根本的な違い

      ※引用:経済産業省『人的資本経営の実現に向けた検討会報告書 人材版伊藤レポート2.0』

      従来の人材戦略では、人件費は削減すべき「コスト」として扱われることが一般的でした。人材管理の目的は、いかに効率的に業務を遂行させるか、いかにコストを抑制するかという視点が中心でした。

      採用や教育にかかる費用は必要経費として認識され、短期的な業績への貢献が重視されていました。

      一方、人的資本経営では、人材への投資は将来のリターンを生み出す「資本投資」として位置づけられます。

      従業員のスキルアップや能力開発に投資することで、生産性の向上やイノベーションの創出につながり、中長期的な企業価値の向上が実現されるという考え方です。

      この違いは、経営判断にも大きな影響を与えます。従来型の経営では、業績が悪化すれば真っ先に人件費や教育研修費が削減されました。しかし人的資本経営では、むしろ困難な時期こそ人材への投資を継続し、将来の成長に向けた基盤を強化するという判断が行われます。

      また、従来の人材戦略が人事部門主導で進められていたのに対し、人的資本経営では経営戦略と人材戦略が密接に連動します。CEO自らが人材戦略の責任者となり、事業戦略の実現に必要な人材像を明確にし、そこに向けた投資を経営判断として行っていくのです。

      従業員の価値を最大化する投資としての位置づけ

      人的資本経営において重要なのは、従業員一人ひとりが持つ潜在的な価値を最大化するための投資を行うという視点です。

      この投資には、スキル開発のための研修や教育プログラムだけでなく、

      • 働きやすい環境の整備
      • キャリア開発支援
      • 健康経営
      • 福利厚生の充実

      など、多岐にわたる取り組みが含まれます。

      従業員の価値を最大化するとは、単に業務効率を上げることだけを意味するのではありません。従業員が自律的に学び成長し、創造性を発揮し、エンゲージメントを高めながら長期的に組織に貢献できる状態を作ることです。

      そのためには、従業員が安心して働ける基盤を整え、成長機会を提供し、将来への展望を持てる環境を構築する必要があります。

      投資としての人的資本は、有形資産への投資と同様に、投資対効果を測定し、継続的に改善していくことが求められます。

      教育投資額に対する生産性向上の度合い、エンゲージメント施策による離職率の変化、健康経営による休職率の低下など、具体的な指標で効果を測定し、PDCAサイクルを回していくのです。

      また、人的資本への投資は、短期的な成果だけでなく、中長期的な企業の競争力を左右します。急速に変化するビジネス環境において、環境変化に対応できる柔軟な人材、新しい価値を創造できる人材を育成することが、企業の持続的成長の鍵となります。

      関連記事:従業員ロイヤリティを高めるには?制度・事例・福利厚生活用まで詳しく解説

      なぜ今、人的資本経営への取り組みが重要視されているのか

      人的資本経営が注目される背景には、企業を取り巻く環境の大きな変化があります。

      ここでは、人的資本経営が重要視される主な理由を解説します。

      投資家が企業の非財務情報を評価するようになった

      近年、投資家の企業評価において、財務情報だけでなく非財務情報の重要性が高まっています。

      ESG投資の拡大により、

      • 環境(Environment)
      • 社会(Social)
      • ガバナンス(Governance)

      への取り組みが投資判断の重要な要素となりました。

      特に「S(社会)」の領域において、人的資本に関する情報は中核的な位置を占めています。従業員への投資状況、ダイバーシティの推進度合い、エンゲージメントの高さ、離職率の低さなどは、企業の持続可能性を測る重要な指標として認識されるようになりました。

      実際、米国では2020年にSEC(証券取引委員会)が人的資本に関する情報開示を義務化し、日本でも2023年3月期決算から有価証券報告書における人的資本情報の記載が義務化されました。

      参考:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について:金融庁

      この流れは、投資家が企業の長期的な価値創造能力を評価する上で、人材への投資と人材マネジメントの質を重視していることを示しています。

      米国オーシャン・トモ社の調査によると、米国では1975年に17%であった企業価値に占める無形資産の割合が、2015年には84%、2020年には90%にまで増加していることがわかっています。

      ※出典)「内閣府 知的財産戦略推進事務局 構想委員会 資料

      企業の市場価値に直結する無形資産の中でも、価値を生み出す能力や才能のような人的資本が、特に重要性が高まっているのです。

      投資家の視点では、優秀な人材を惹きつけ、育成し、定着させている企業ほど、将来的に高い収益性を維持できると考えられています。人的資本への投資が適切に行われている企業は、イノベーション創出力が高く、市場変化への適応力があり、持続的な成長が期待できるのです。

      働き方の多様化による人材獲得競争の激化

      少子高齢化による労働人口の減少に加え、働き方の多様化が進む中、優秀な人材の獲得競争は激化の一途をたどっています。

      終身雇用や年功序列といった従来の日本型雇用システムが変化し、転職が当たり前となった現代において、企業は継続的に優秀な人材を惹きつける魅力を持ち続ける必要があります。

      特に若い世代は、給与水準だけでなく、成長機会の有無、ワークライフバランス、企業の社会的意義、職場環境の快適さなど、多面的な要素で就職先を選択します。

      人的資本経営に積極的に取り組み、従業員の成長と幸福を重視する企業文化を持つ企業は、人材獲得において明確な競争優位性を持つことができます。

      また、リモートワークの普及により、地理的制約が緩和され、人材の流動性はさらに高まっています。企業は単に雇用を提供するだけでなく、従業員が自己実現でき、成長し続けられる環境を提供することが、人材定着の鍵となっています。

      人的資本経営の実践は、こうした人材獲得競争において、企業のブランド価値を高める重要な要素なのです。

      DX推進に不可欠な専門人材の育成

      デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。しかし、DXを推進できる専門人材は慢性的に不足しており、外部からの採用だけでは必要な人材を確保することは困難です。

      このため、既存の従業員に対するリスキリング(新しいスキルの習得)やアップスキリング(既存スキルの高度化)への投資が不可欠となっています。DXに必要なデータ分析能力、プログラミングスキル、デジタルツールの活用力などを、組織的に育成していく必要があります。

      人的資本経営の観点からは、こうした専門人材の育成は単なる短期的な教育投資ではなく、企業の競争力を左右する戦略的投資として位置づけられます。

      従業員が新しいスキルを習得することで、業務効率が向上し、新しいビジネスモデルの創出が可能になり、結果として企業価値の向上につながるのです。

      また、従業員にとっても、会社が自分のスキル向上に投資してくれることは、キャリアの選択肢を広げ、市場価値を高める機会となります。このことが従業員のエンゲージメントを高め、人材定着にもつながるという好循環が生まれます。

      経済産業省が「人材版伊藤レポート」で推進を後押し

      経済産業省は2020年9月に「人材版伊藤レポート」を公表し、人的資本経営の重要性と具体的な実践方法を示しました。

      このレポートは、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏を座長とする研究会でまとめられたもので、日本企業が人的資本経営を実践するための指針として大きな影響力を持っています。

      レポートでは、「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」として、経営戦略と人材戦略の連動、目指すべきビジネスモデルや経営戦略との整合性、企業文化への定着という3つの視点を提示しています。

      また、動的な人材ポートフォリオ、知・経験のダイバーシティ&インクルージョン、リスキル・学び直し、従業員エンゲージメント、時間や場所にとらわれない働き方という5つの共通要素を示しています。

      2022年5月には「人材版伊藤レポート2.0」が公表され、より実践的な取り組み方法が示されました。このレポートでは、人的資本の情報開示の重要性が強調され、ISO30414などの国際的な基準も紹介されています。

      政府によるこうした明確な方向性の提示により、多くの企業が人的資本経営への取り組みを本格化させています。特に上場企業においては、情報開示義務化への対応とともに、実質的な人的資本への投資強化が進んでいます。

      人的資本経営の推進には、従業員の成長を支える実効性のある施策が不可欠です。マネーリペアでは、福利厚生での金融教育を通じて従業員の経済的基盤を強化し、人的資本の価値向上をサポートしています。人的資本経営の具体的な取り組みについて、お気軽にご相談ください。

      人的資本経営に取り組むことで企業が得られる4つのメリット

      人的資本経営を実践することで、企業はさまざまなメリットを得ることができます。

      ここでは、特に重要な4つのメリットについて解説します。

      従業員のスキルアップによる生産性の向上

      人的資本経営において、従業員のスキル開発への投資は中核的な取り組みです。体系的な教育研修プログラムの提供、リスキリングの機会創出、OJTの充実などを通じて、従業員の能力を継続的に高めていくことで、組織全体の生産性が向上します。

      スキルアップした従業員は、より高度な業務を効率的にこなせるようになり、問題解決能力や創造性も高まります。また、デジタルスキルを持つ従業員が増えることで、業務プロセスの自動化やデジタル化が進み、さらなる効率化が実現されます。

      従業員のスキルアップは、単に個人の能力向上だけでなく、組織全体の知識レベルを引き上げます。優れたスキルを持つ従業員が他のメンバーに知識を共有することで、組織全体の能力が底上げされ、チーム全体のパフォーマンスが向上するのです。

      さらに、従業員が新しいスキルを習得することで、これまで外部に依存していた業務を内製化できるようになる場合もあります。これにより、コスト削減だけでなく、業務のスピードアップや品質向上も実現されます。

      企業イメージの向上による優秀な人材の確保

      人的資本経営に積極的に取り組む企業は、「従業員を大切にする企業」「成長機会を提供する企業」として認知され、企業ブランドが向上します。このブランド価値の向上は、優秀な人材を惹きつける強力な武器となります。

      特に若い世代の求職者は、企業の人的資本への取り組み姿勢を重視します。充実した教育制度、キャリア開発支援、働きやすい環境、多様性を尊重する文化などは、就職先を選ぶ際の重要な判断材料となっています。

      人的資本情報を積極的に開示し、実際に従業員への投資を行っている企業は、採用市場において明確な競争優位性を持つことができます。

      また、現在の従業員が会社の取り組みに満足し、エンゲージメントが高い状態であれば、その従業員自身が会社の魅力を外部に発信するアンバサダーとなります。SNSでの情報発信や口コミを通じて、自然と優秀な人材が集まる好循環が生まれるのです。

      人材獲得競争が激化する中、人的資本経営への真摯な取り組みは、採用コストの削減にもつながります。ブランド力の高い企業には自然と応募が集まり、より質の高い人材プールから選考できるようになります。

      エンゲージメントが高まり離職率の低下につながる

      人的資本経営の実践により、従業員のエンゲージメントが向上し、結果として離職率の低下につながります。会社が自分の成長に投資してくれていると実感できることで、従業員は組織への帰属意識を高め、長期的に貢献したいという気持ちを持つようになります。

      キャリア開発の機会が提供され、公正な評価制度が整備され、働きやすい環境が確保されている職場では、従業員は安心して能力を発揮できます。また、自分の意見が尊重され、挑戦する機会があり、失敗しても学びに変えられる文化があることで、従業員のモチベーションは維持されます。

      離職率の低下は、企業にとって大きなメリットをもたらします。採用コストや教育コストの削減はもちろん、熟練した従業員が長期的に在籍することで、組織の知識やノウハウが蓄積され、業務の質が向上します。

      また、チームの安定性が保たれることで、プロジェクトの継続性が確保され、長期的な計画の実行が可能になります。

      特に、専門スキルを持つ人材や、顧客との関係性を築いている人材の離職は、企業にとって大きな損失となります。人的資本経営により、こうした重要人材の定着率を高めることができれば、企業の競争力は大きく向上します。

      関連記事:組織を強くする「帰属意識」と「エンゲージメント」の違いと高め方

      関連記事:エンゲージメント経営とは?導入するメリットや特徴、事例や実践方法を徹底解説

      投資家からの評価向上で資金調達が有利になる

      人的資本情報の適切な開示と、実効性のある人的資本経営の実践は、投資家からの評価向上につながります。ESG投資が拡大する中、人的資本への取り組みは企業の持続可能性を示す重要な指標として認識されています。

      投資家は、人材への投資が充実している企業を、将来的な成長性が高い企業として評価します。従業員のスキルレベルが高く、エンゲージメントが高く、イノベーション創出力がある企業は、市場環境の変化にも柔軟に対応できると判断されるためです。

      人的資本情報の開示においては、単に数値データを示すだけでなく、それらのデータが経営戦略とどのように連動しているか、どのような成果を生み出しているかを、ストーリーとして説明することが重要です。

      明確な戦略に基づいた人材投資を行い、その効果を定量的に示せる企業は、投資家からの信頼を得やすくなります。

      また、人的資本経営への取り組みは、企業のレピュテーションリスクの低減にもつながります。従業員を大切にする企業文化があり、ハラスメントや不当な労働慣行がない企業は、不祥事のリスクが低く、安定した経営が期待できると評価されます。

      人的資本経営の推進には、従業員の成長を支える実効性のある施策が不可欠です。マネーリペアでは、福利厚生での金融教育を通じて従業員の経済的基盤を強化し、人的資本の価値向上をサポートしています。人的資本経営の具体的な取り組みについて、お気軽にご相談ください。

      人的資本経営の取り組みを実践するための4ステップ

      人的資本経営を実際に推進していくためには、体系的なアプローチが必要です。

      ここでは、実践のための4つのステップを解説します。

      ステップ1:経営戦略と連動した人材戦略を明確にする

      人的資本経営の出発点は、自社の経営戦略を実現するために必要な人材像を明確にすることです。事業戦略として何を目指すのか、そのためにどのような人材が必要なのか、現在の人材ポートフォリオとのギャップはどこにあるのかを、経営層が主導して明確にします。

      たとえば、DXを推進して新しいビジネスモデルを構築することが経営戦略であれば、デジタル人材の育成と確保が人材戦略の中核となります。グローバル展開を加速させるのであれば、語学力やグローバルマインドセットを持つ人材の育成が必要になります。

      イノベーション創出を重視するのであれば、多様な背景を持つ人材の確保と、挑戦を促す組織文化の醸成が求められます。

      重要なのは、経営戦略と人材戦略が一体となって策定されることです。人事部門だけで人材戦略を考えるのではなく、CEOや経営幹部が人材戦略の策定に深く関与し、事業戦略との整合性を確保する必要があります。

      人材版伊藤レポートでも、CHROの設置や、経営層による人材戦略への関与の重要性が強調されています。

      また、人材戦略は、単年度の計画ではなく、中長期的な視点で策定される必要があります。人材の育成には時間がかかるため、3年後、5年後の事業環境を見据えた計画が求められます。

      ステップ2:現状を分析し具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定する

      経営戦略と連動した人材戦略が明確になったら、次に現状の人的資本の状態を分析し、目標とするKPIを設定します。

      現状分析では、

      • 従業員のスキルレベル
      • エンゲージメント状況
      • 多様性の度合い
      • 離職率
      • 教育投資額
      • 健康状態

      など、多面的なデータを収集します。

      KPIの設定においては、ISO30414などの国際的な基準や、内閣官房が公表している「人的資本可視化指針」を参考にしながら、自社の戦略に適した指標を選定します。

      一般的な指標としては、

      • 従業員エンゲージメントスコア
      • 離職率
      • 教育研修投資額
      • 女性管理職比率
      • 多様性指標
      • 一人当たり生産性
      • 健康経営指標

      などがあります。

      重要なのは、単に一般的な指標を採用するのではなく、自社の経営戦略の実現に本当に必要な指標を見極めることです。たとえば、イノベーション創出を重視する企業であれば、「異業種からの中途採用比率」や「社内起業制度の活用率」といった独自の指標が有効かもしれません。

      また、KPIは定量的な指標だけでなく、定性的な指標も組み合わせることが効果的です。数値だけでは捉えきれない組織文化や従業員の意識の変化を、インタビューやアンケートの自由記述などから読み取ることも重要です。

      ステップ3:KPI達成に向けた施策を立案し実行に移す

      KPIが設定されたら、それを達成するための具体的な施策を立案し、実行に移します。施策は、スキル開発、エンゲージメント向上、健康経営、ダイバーシティ推進、福利厚生の充実など、多岐にわたります。

      施策の立案においては、現状とのギャップを埋めるために何が必要かを明確にし、優先順位をつけて取り組みます。すべてを一度に実施することは困難ですから、最もインパクトの大きい施策から着手し、段階的に拡大していくアプローチが現実的です。

      施策の実行においては、経営層のコミットメントが不可欠です。人的資本への投資には予算が必要であり、組織全体の協力も必要となります。経営層が明確にコミットし、全社的な取り組みとして推進することで、実効性が高まります。

      また、施策の実行プロセスでは、現場の声を聞きながら柔軟に調整していくことが重要です。トップダウンで決めた施策が、必ずしも現場のニーズに合っているとは限りません。従業員からのフィードバックを積極的に収集し、施策の改善に活かしていく姿勢が求められます。

      ステップ4:施策の効果を定期的に測定し改善を繰り返す

      施策を実行したら、その効果を定期的に測定し、PDCAサイクルを回していきます。設定したKPIに対する実績を定期的にモニタリングし、目標達成度を確認します。

      効果測定においては、単に数値の変化を見るだけでなく、その背景にある要因を分析することが重要です。たとえば、離職率が低下したとしても、それが本当に人的資本施策の効果なのか、それとも外部環境の変化によるものなのかを見極める必要があります。

      測定結果に基づいて、施策の継続、拡大、修正、中止を判断します。効果が出ている施策は継続・拡大し、効果が不十分な施策は原因を分析して改善策を講じます。場合によっては、施策自体を見直し、より効果的なアプローチに切り替えることも必要です。

      また、人的資本情報の開示においては、こうした取り組みのプロセスと成果を、ステークホルダーに対して透明性高く説明することが求められます。単に良い数値だけを示すのではなく、課題や改善点も含めて誠実に開示することで、投資家や求職者からの信頼を得ることができます。

      人的資本経営の推進には、従業員の成長を支える実効性のある施策が不可欠です。マネーリペアでは、福利厚生での金融教育を通じて従業員の経済的基盤を強化し、人的資本の価値向上をサポートしています。人的資本経営の具体的な取り組みについて、お気軽にご相談ください。

      人的資本経営における主な取り組み領域

      人的資本経営を実践する上で、企業が取り組むべき主な領域について解説します。

      スキル・キャリア開発(リスキリング、社内研修)

      スキル開発とキャリア支援は、人的資本経営の中核的な取り組み領域です。急速な技術革新やビジネスモデルの変化に対応するため、従業員の継続的なスキルアップが不可欠となっています。

      リスキリングとは、現在の職務とは異なる新しいスキルを習得することを指します。たとえば、営業職の従業員がデータ分析スキルを学んだり、事務職の従業員がデジタルマーケティングのスキルを身につけたりすることがこれに当たります。

      企業は、将来必要となるスキルを見据えて、計画的にリスキリングの機会を提供する必要があります。

      社内研修プログラムの充実も重要です。階層別研修、職種別研修、テーマ別研修など、多様な研修メニューを用意し、従業員が自分に必要な学びを選択できる環境を整えます。オンライン学習プラットフォームの活用により、時間や場所を問わず学習できる環境を提供することも効果的です。

      キャリア開発支援では、従業員が自身のキャリアパスを描き、そこに向けて必要なスキルを習得できるよう支援します。定期的なキャリア面談、社内公募制度、ジョブローテーション、メンター制度などを通じて、従業員の主体的なキャリア形成を促します。

      エンゲージメント・組織文化(心理的安全性・帰属意識)

      従業員エンゲージメントの向上は、人的資本経営の重要な目標の一つです。エンゲージメントが高い従業員は、自発的に高いパフォーマンスを発揮し、組織に長期的に貢献します。

      エンゲージメントを高めるには、まず心理的安全性の確保が重要です。従業員が安心して意見を言え、失敗を恐れずに挑戦でき、互いに尊重し合える職場環境を作ることで、従業員は能力を最大限に発揮できるようになります。

      前回の記事で詳しく解説したように、心理的安全性は生産性向上やイノベーション創出の基盤となります。

      帰属意識の醸成も重要です。会社のビジョンやミッションに共感し、自分の仕事が社会に貢献していると実感できることで、従業員は仕事に意義を見出します。経営層と従業員の対話機会を増やし、会社の方向性や戦略を共有することで、一体感が生まれます。

      また、公正な評価制度、透明性の高い人事制度、オープンなコミュニケーション文化なども、エンゲージメント向上に寄与します。従業員が「この会社は自分を公正に扱ってくれている」「自分の貢献が認められている」と感じられることが、エンゲージメントの基盤となります。

      関連記事:従業員エンゲージメントとは?従業員満足度(ES)の違いや高める方法を解説

      健康経営・メンタルケア(働きやすさの基盤づくり)

      従業員の心身の健康は、人的資本の基盤です。健康経営への取り組みは、従業員のパフォーマンス向上だけでなく、医療費の削減や休職率の低下といった直接的な経営効果ももたらします。

      健康経営の取り組みとしては、定期的な健康診断の実施と事後フォロー、運動機会の提供、健康的な食事の支援、禁煙支援プログラムなどが一般的です。また、長時間労働の是正や、適切な休暇取得の促進も重要な施策です。

      メンタルヘルスケアも欠かせません。ストレスチェックの実施と結果に基づいた職場環境の改善、カウンセリング窓口の設置、メンタルヘルス研修の実施などを通じて、従業員の心の健康を守ります。

      特に、管理職がメンバーのメンタル不調のサインに気づき、適切に対応できるよう、教育を行うことが重要です。

      働きやすい環境の整備として、フレックスタイム制度やリモートワーク制度の導入、育児・介護と仕事の両立支援なども効果的です。多様な働き方を認めることで、従業員は自分のライフステージに合わせて働き続けることができます。

      ダイバーシティ・インクルージョン(多様性推進)

      多様性の推進は、イノベーション創出と組織の適応力向上に直結します。性別、年齢、国籍、バックグラウンド、価値観などが異なる人材が集まることで、多様な視点が生まれ、創造的なアイデアが生まれやすくなります。

      女性活躍推進は、ダイバーシティの重要な要素です。女性管理職比率の向上、育児と仕事の両立支援、無意識のバイアスの解消などに取り組みます。単に女性の採用を増やすだけでなく、女性がキャリアを築き、リーダーとして活躍できる環境を整えることが重要です。

      外国籍人材の活用も、グローバル化が進む現代において重要です。言語の壁を取り除き、文化の違いを尊重し、誰もが活躍できる職場環境を作ります。障がい者雇用の促進、LGBTQ+への配慮なども、インクルージョンの観点から重要な取り組みです。

      ダイバーシティは、単に多様な人材を採用するだけでは実現しません。多様な人材が実際に活躍し、それぞれの強みを発揮できる組織文化を作ることが、真のインクルージョンです。そのためには、全従業員がダイバーシティの価値を理解し、お互いを尊重し合う意識を持つことが必要です。

      福利厚生・生活支援(経済的安定・ライフプラン支援)

      従業員の生活基盤を支える福利厚生も、人的資本経営の重要な領域です。従業員が経済的に安定し、将来への不安なく働ける環境を整えることで、仕事へのエンゲージメントが高まり、パフォーマンスが向上します。

      住宅手当や家族手当といった伝統的な福利厚生に加え、近年注目されているのが、従業員の経済的リテラシーを高める支援です。金融教育プログラムの提供、ファイナンシャルプランナーへの相談機会、資産形成支援制度などを通じて、従業員が自律的に経済的安定を築けるよう支援します。

      企業型確定拠出年金(DC)やNISA、財形貯蓄制度などの資産形成支援は、従業員の将来不安を軽減する効果的な施策です。特に、金融教育と組み合わせることで、従業員が制度を理解し、適切に活用できるようになります。

      ライフプラン支援として、ライフイベントに応じた各種支援制度の整備も重要です。結婚、出産、育児、介護、住宅購入など、人生の節目において必要な支援を提供することで、従業員は安心してライフステージの変化に対応できます。

      関連記事:福利厚生での資産形成とは?人材戦略で活用できる投資型福利厚生!

      人的資本経営の推進には、従業員の成長を支える実効性のある施策が不可欠です。マネーリペアでは、福利厚生での金融教育を通じて従業員の経済的基盤を強化し、人的資本の価値向上をサポートしています。人的資本経営の具体的な取り組みについて、お気軽にご相談ください。

      人的資本経営の取り組みを成功に導くためのポイント

      人的資本経営を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

      情報開示そのものをゴールに設定しない

      人的資本情報の開示が義務化されたことで、開示すること自体が目的化してしまう企業も見られます。しかし、情報開示は手段であり、目的ではありません。重要なのは、実質的に人材への投資を強化し、企業価値を向上させることです。

      形だけの情報開示では、投資家や求職者を納得させることはできません。数値を並べるだけでなく、その背景にある戦略や取り組みの実態、そして成果を、具体的なストーリーとして説明することが求められます。

      人的資本情報の開示は、企業が自社の人材戦略を見直し、改善するための機会と捉えるべきです。開示のプロセスを通じて、自社の強みと課題を明確にし、より効果的な施策を立案することができます。

      また、開示した情報に対する外部からのフィードバックを、改善のヒントとして活用することも重要です。

      経営層が主導して全社的な取り組みとして推進する

      人的資本経営は、人事部門だけで推進できるものではありません。CEOをはじめとする経営層が主導し、全社的な取り組みとして推進する必要があります。

      経営層のコミットメントがあってこそ、人材への投資に必要な予算が確保され、全部門が協力して施策を実行できます。また、経営層が人的資本の重要性を繰り返し発信することで、組織全体に意識が浸透していきます。

      CHROや人事担当役員を設置し、経営会議で定期的に人的資本の状況を議論することも効果的です。人的資本を経営の重要アジェンダとして位置づけ、事業戦略と一体となって推進していく体制を作ることが、成功の鍵となります。

      自社の課題に合わせた独自の指標を見つける

      人的資本のKPIを設定する際、他社の事例や標準的な指標をそのまま採用するだけでは不十分です。自社の経営戦略や事業特性、現在の課題を踏まえて、本当に重要な指標を見極める必要があります。

      たとえば、研究開発型企業であれば、「博士号取得者の比率」や「異分野連携プロジェクトの数」といった指標が重要かもしれません。グローバル展開を加速させる企業であれば、「海外勤務経験者の比率」や「多国籍チームの数」が重要な指標となるでしょう。

      自社独自の指標を設定することで、経営戦略との整合性が高まり、施策の効果も測定しやすくなります。また、独自の指標を持つことで、他社との単純比較ではなく、自社の特徴や強みを示すことができます。

      人的資本経営の成功事例に学ぶ:先進企業の取り組み

      ここでは、人的資本経営を実践している先進企業の事例を紹介します。

      事例:金融教育導入による社員エンゲージメント向上の事例

      従業員の経済的不安がパフォーマンスに影響していることに着目し、福利厚生の一環として包括的な金融教育プログラムを導入しました。

      プログラムでは、ライフプランニングの基礎、税金・社会保険の知識、資産形成の方法、保険の見直しなど、幅広いテーマで勉強会を開催しました。また、専門のファイナンシャルプランナーによる個別相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる環境を整えました。

      特に効果が高かったのは、実践的なワークショップ形式の研修です。自分の収支を見直し、無駄な支出を削減し、資産形成の計画を立てるという具体的な作業を通じて、多くの従業員が手取り収入の実質的な増加を実現しました。

      導入後の従業員アンケートでは、「将来への不安が軽減された」「会社が自分の生活を真剣に考えてくれていると感じる」という回答も得ました。

      エンゲージメントスコアは導入前と比較して向上し、離職率は前年比で低下しました。

      経営層は、この取り組みを「人的資本への投資として、最も費用対効果が高い施策の一つ」と評価しています。

      「選べる未来を自分で描ける...そんな環境を支えたかった」ご利用者様の声 | 株式会社ルプラボウ様の導入事例インタビューはこちら

      福利厚生と人的資本経営の関係:「金融教育」が新たな投資領域に

      人的資本経営において、見落とされがちながら重要なのが、従業員の経済的安定を支援する取り組みです。

      社員の経済的不安がパフォーマンスに与える影響

      従業員が抱える経済的不安は、職場でのパフォーマンスに直接的な影響を与えます。お金の心配が頭から離れないことで集中力が低下し、金銭的ストレスが認知能力を鈍化させ、判断力が損なわれます。

      経済的に不安定な従業員は、短期的な収入確保を優先してしまい、長期的なキャリア形成やスキル開発に積極的になれません。また、転職や起業といったリスクのある選択を避け、現状維持を志向するようになります。

      これは、個人のキャリアにとってマイナスであるだけでなく、組織の活力を失わせる要因ともなります。

      人的資本経営の観点からは、従業員の経済的不安を解消することは、人的資本の価値を最大化するための基盤整備といえます。経済的に安定した従業員は、仕事に集中でき、挑戦的な姿勢を持ち、長期的な視点で成長を目指すことができるのです。

      金融教育は「社員の自律的成長」を支える投資

      金融教育は、単に従業員にお金の知識を与えるだけではありません。従業員が自分自身で経済的安定を築き、将来の不安に対処できる力を身につける、つまり「自律的成長」を支援する投資なのです。

      金融教育を通じて、従業員はライフプランの立て方、家計管理の方法、税金や社会保険の仕組み、資産形成の選択肢などを学びます。この知識は、従業員が主体的に人生設計を行い、経済的に自立するための基盤となります。

      企業が金融教育を提供することは、従業員に「魚を与える」のではなく「魚の釣り方を教える」ことです。一時的な金銭的支援ではなく、長期的に自分で経済的安定を維持できる力を身につけてもらうことで、持続的な効果が生まれます。

      また、金融教育は従業員のエンゲージメント向上にも寄与します。会社が自分の生活全体を考えてくれていると感じることで、従業員は組織への信頼と帰属意識を高めます。

      経済的な不安が軽減されることで、仕事へのモチベーションが向上し、長期的に会社に貢献したいという気持ちが生まれるのです。

      福利厚生を"コスト"から"資本投資"に変える発想

      従来、福利厚生は「従業員を維持するためのコスト」として認識されがちでした。しかし、人的資本経営の視点では、福利厚生は「人的資本の価値を高めるための投資」として位置づけられます。

      この発想の転換により、福利厚生の設計も変わってきます。単に従業員を満足させるための「メニュー」を並べるのではなく、経営戦略の実現に必要な人材を育て、定着させるための「戦略的投資」として福利厚生を設計するのです。

      たとえば、金融教育プログラムの提供は、従業員の経済的不安を解消することで、エンゲージメントを高め、生産性を向上させ、離職率を低下させます。

      この効果を定量的に測定し、投資対効果を示すことで、福利厚生が単なるコストではなく、企業価値向上に貢献する投資であることを証明できます。

      人的資本情報の開示においても、福利厚生への投資額やその効果を示すことで、企業が従業員を大切にし、長期的な視点で人材に投資していることをアピールできます。これは、投資家や求職者からの評価向上につながります。

      マネーリペアの金融教育サービスで人的資本を強化する方法

      当社、株式会社インプレームが提供する「マネーリペア」は、企業の人的資本経営を支援する金融教育サービスです。専門のファイナンシャルプランナーが、従業員の金融リテラシー向上と経済的安定を支援します。

      マネーリペアのサービス内容は、金融リテラシー勉強会の開催、プロのファイナンシャルプランナーによる個別相談、資産管理ツールの提供という3つの柱で構成されています。

      勉強会では、ライフプランニング、資産形成、税金・社会保険、家計管理など、幅広いテーマを扱います。個別相談では、従業員一人ひとりの状況に応じたきめ細かなアドバイスを提供し、匿名性を確保して安心して相談できる環境を整えています。

      マネーリペア|勉強会の風景

      導入企業からは、「勉強会や個別相談を通じて従業員の手取り収入が増え、直近1年の離職率が低下した」「税金や年金の質問が総務部に来なくなり、本業の業務に集中できるようになった」という声が寄せられています。

      マネーリペアがもたらす効果は、従業員の金銭的不安の解消による仕事への集中力向上、会社への満足度とエンゲージメントの向上、離職率の低下と人材定着の実現、生産性の向上、そして採用活動における競争優位性の獲得など、多岐にわたります。

      人的資本経営の観点からは、金融教育への投資額、従業員の金融リテラシースコア、金融教育プログラムの活用率、経済的不安を感じる従業員の割合の変化などを、人的資本KPIとして設定し、効果を定量的に測定することができます。

      マネーリペアの金融教育プログラムは、従業員の自律的成長を支援し、人的資本の価値を最大化します。貴社の人的資本経営を強化するために、資料請求・無料相談をお気軽にお問い合わせください。

      まとめ|人的資本経営は「社員への投資」から始まる

      人的資本経営は、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値向上を目指す経営手法です。

      投資家が非財務情報を重視するようになり、人材獲得競争が激化し、DX推進が急務となる中、人的資本経営への取り組みは企業の持続的成長に不可欠な要素となっています。

      人的資本経営は一朝一夕には実現できません。しかし、本記事で紹介した考え方やステップ、事例を参考に、今日から一歩を踏み出すことで、必ず成果は表れます。従業員一人ひとりが成長し、活躍できる環境を整えることが、企業の持続的な成長と発展の基盤となります。

      マネーリペアは、金融教育を通じて、貴社の人的資本経営の推進を全力でサポートいたします。従業員の経済的安定と自律的成長を支援し、組織全体の価値向上に貢献します。人的資本経営の具体的な実践について、ぜひお気軽にご相談ください。

      • 江本 一郎
      • この記事を書いた人

        江本 一郎
        株式会社インプレーム 代表取締役

        皆さまの価値観に合ったライフデザインを提供し、人生100年の時代をより豊かに過ごせるよう、お子様、お孫様へと世代を超えた金融のトータルサポートを提供していきます。

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